【赤旗】新春対談 /東京大学教授 本田由紀さん /日本共産党委員長 志位和夫さん

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新春対談

東京大学教授 本田由紀さん

日本共産党委員長 志位和夫さん

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この国の政治を変える

「私たちはあきらめない」

 新年恒例の新春対談、ことしのゲストは、教育社会学者の本田由紀さん(東京大学教授)です。総選挙では日本共産党や野党共闘を応援、また選挙直前には『「日本」ってどんな国?』(ちくまプリマー新書)を出版、この国の政治や社会のあり方を鋭く問いました。志位和夫委員長と縦横に語り合いました。

「ぶれないのに柔軟」の誕生秘話

 志位 明けましておめでとうございます。

 本田 明けましておめでとうございます。

 志位 昨年の総選挙では、本田さんから日本共産党に対してたいへん心のこもったメッセージをいただきありがとうございました。「ぶれないのに柔軟。強いのにやさしい。理知的なのに温かい」。とてもうれしくて、街頭演説でも一番に紹介させていただきました。

 本田 結構、私サービス精神がありまして(笑い)、コメントの依頼をいただいたもので、うんと考えて三つ頭に浮かんだ言葉を並べました。ただ個人的には、前後の言葉を「…のに」でつないでしまったのには少し後悔しています。それぞれの言葉は相反するものではありませんよね。強い、「だから」やさしいわけですし、理知的、「だから」温かいわけです。

 志位 なるほど。ますます照れてしまいます。(笑い)

 本田 日本共産党を応援する動画では、ちょっといたずら心が湧きまして、普段はあまり着ないヒョウ柄の服を着ました。そのわけを「『今日は共産党に票(ヒョウ)を』ということで」とツイートしたら、結構反響がありました。(笑い)

コロナ、総選挙、そして参議院選挙

 本田 昨年を振り返ると、夏の地獄のような記憶が残っています。新型コロナの感染者数が増え続け、自宅で亡くなる方の数もどんどん増える一方で、華々しいオリンピックの空騒ぎがテレビで交互に繰り広げられました。頭が変になりそうでした。

 志位 とくに「第5波」でたくさんの方々が亡くなられました。私たちは最後まで反対しましたが、緊急事態宣言の最中に、オリンピック・パラリンピックを強行するという間違った政治の下で、多くの方々の命が失われました。これは本当に繰り返してはいけない、今後に生かさなければならないと考えています。

 本田 そして、先ほど話題になった総選挙です。自民・公明が過半数を得た結果には、ちょっと複雑な思いが残りました。今年は参院選があり、たたかいは続きます。この国の現状は、「おかしいよね、こんなの」ってあきらめたくなるようなことばかりですけれども、あきらめることはいつでもできるので、私はあきらめません。もう少し頑張ろうというのが、今年の抱負です。

 志位 昨年の総選挙では、6年かかってようやく本格的な野党共闘の体制ができました。私たちは、ここまで合意したのだから、「野党共闘で政権交代をはじめよう」と力いっぱい訴えました。このことに悔いはありません。ただ、相手側は、とても恐ろしい事態が起こったというふうに相当構え、野党共闘や日本共産党に対する風当たりが強くなりました。その結果、共産党は残念な後退だったのですが、そういう中でも、二つほど私は今年につながる大きな成果があったと思っています。

 本田 二つの成果ですか。

 志位 一つは、野党共闘が間違いなく成果を上げたということです。そして、共産党が共闘に真剣に取り組むことで、信頼も広がりました。本田さんのメッセージもその信頼のあらわれとして、とてもうれしかった。

 本田 ありがとうございます。

 志位 二つ目は、今度の選挙で、私たちは、暮らし、平和とともに、気候危機打開とジェンダー平等という、世界にとっても日本にとっても大問題を、国政選挙で初めて正面からの大争点として訴えたことです。

 これがとくに若い方にも響きました。全国どこでも、この二つの問題を真剣に訴えたことで、若いみなさんの反応がぐっと広がって、これは選挙後もずっと続いています。

 今年は党創立100年ですから、その年にふさわしく、参議院選挙では反転攻勢で勝利と躍進を勝ち取りたいと決意しているところです。

野党共闘と共産党への攻撃、屈するわけにはいかない

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しい・かずお 1954年生まれ。東京大学工学部物理工学科卒業。1990年から日本共産党書記局長、2000年から幹部会委員長。衆院議員(比例南関東ブロック)10期。近著は『学生オンラインゼミ 社会は変わるし、変えられる』

 本田 それにしても総選挙での野党共闘攻撃はひどかった。メディアの報道もひどかった。本当にひどい中傷のようなことがたくさんあって、すごく腹が立っています。

 それは、志位さんがおっしゃったように、相手方にとって野党共闘がすごい脅威だったからこそですね。そうはいっても、デマまがいな攻撃をしてくるのは本当に許されません。

 志位 選挙後、あるメディアで、根拠も示さずにひたすら共産党を叩(たた)く記事が出たんです。私は、批判は自由だけれど、何の根拠も示さずに非難するというのは良くないですよと言ったんです。

 民主主義の社会ですから、どんな批判も私たちは受け止めます。そして、私たちが身を正さなければならない批判に対しては、真剣に耳を傾けて、自己改革をやっていかなければいけないと思っています。しかし、根拠もなしの非難は困ります。共産党に対してはどんな理不尽な攻撃をしても許されるとなったら、日本の民主主義は危うくなってしまいます。

 ある自民党の重鎮からこんなメッセージが届きました。

 「1人区で野党がバラバラでなく、1対1の構図をつくられたら、まずいことは誰でもわかる。だから、自民党はメディアに『野党共闘は失敗だ』と書かせている。共産党はメディアに批判されても屈せず野党共闘をブレずに進む。だから共産党に攻撃が集中するのだと思う。共闘がない限り、政権交代がないからだ。共産党が共闘路線を歩む限り、自民党はつねに政権交代の不安と恐怖を抱き続けることだろう」

 この方は、共産党が共闘をやったほうが、自民党にとって緊張感が出ていいという立場ですが、その路線を歩む限り、自民党は常に「不安と恐怖を抱き続ける」。だから、この際、ともかく共闘の芽を摘んでしまおうという攻撃だというのです。

 本田 自民党のなかでも比較的ましな方かもしれませんが、自分の身ぐらい自分で正せといいたいですけどね。もちろん、こんな攻撃があっても、共闘をあきらめるわけにはいきません。

 志位 絶対に、これには屈するわけにはいかない。理不尽な攻撃には事実をもって反論しますし、同時に、国民のなかで平和の運動、暮らし、ジェンダー、気候危機など、いろいろな運動を起こしていって、その力で、また私たち自身が希望のある未来を示すことで、はね返していきたいと思っています。

 私などは、叩かれれば叩かれるほど、「絶対にやめるものか」と思います。そんなに簡単に野党共闘はつぶれたりしません。なくなることはありません。安倍政権によって安保法制が強行されたのが2015年で、以来6年間、山あり谷ありで、いろいろな場面に遭遇してきましたが、私は、やはり共闘の根底に流れているのは市民の声だと思っています。6年前の国会前に集まった方々の「野党は共闘」という声だと思っています。この声は、湧き出たり、伏流水になったり、いろいろな現れ方をするけれど、変わらないし、発展していくと思っています。だから、そういう声と、6年間の積み重ねがある以上、今後、難しいことが起こっても、また、紆余(うよ)曲折があるかもしれないけれど、野党共闘は必ず前進すると私は考えています。

 本田 私は市民連合のメンバーではありませんが、外から折々に関与させていただくという立場で、野党共闘も応援してきました。共産党は辛抱強く、共闘を進め、総選挙でも多くの候補者をおろしてくださいました。見すえてらっしゃるものが明確だからぶれない、そして、そのために柔軟に対応するからだと思っています。

 昨年11月3日の国会前行動のスピーチでも、今強い野党勢力が必要だ、野党の共闘は絶対条件だと訴えさせてもらいましたが、その気持ちが変わることはありません。

野党共闘、共産党の政策を広げるために

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(写真)11・3憲法大行動で訴える本田由紀東京大学教授=2021年11月3日、国会正門前

 本田 共産党が総選挙で訴えた平和、暮らし、ジェンダー、気候はどれもすごく大事だと思っています。私は賛成します。

 でも、その訴えが響かない人々、違うところに関心があったり、そういった訴えがきれいごとに思えるような層というのが、どっかり存在していることは確かです。

 たとえば、30代、40代ぐらいの働き盛りの男性にとっては、賃金も上がらない、家族もいるなか、“とにかく食っていかなきゃいけない”“とにかくもうちょっと金を稼ぎたい”“とにかくもうちょっとゆとりがほしい”みたいな切実な思いがあります。

 ツイッターには、「野党は苦しい人たちには非常に優しいような政策を提言とかするけれども、そこまで苦しくはない自分たちに対して一体何をやってくれるんだ」みたいな声がありました。改めて総選挙の各党の政策を読み比べてみた時に、自民党は経済政策にたくさんの項目が挙げられていて、しかもなんかカタカナ用語みたいのをいっぱい使いながら、キラッキラな素晴らしい将来がすぐそこにあるかのような、マニフェストを掲げていました。「もう一度、力強い日本を」とか、「強い経済と素晴らしいテクノロジーを」とか、こうしたキラキラした雰囲気を渇望している有権者が、先ほど話した30代、40代の男性を中心にいると思います。

 私は、自民党の政策は空疎だとは思います。一方で野党側の政策は、理想としてはとても本当に素晴らしいのですが、表現の仕方、言葉遣いも含めて、「守る」って言葉が多いのが気になりました。

 たとえば、資本主義はもちろん弊害がいっぱいありますけれども、すごく強欲な資本主義じゃなくても、やはりある程度、当座の経済を回さないと、社会保障の原資も手に入りません。経済・産業をうまく回すってことはイコール新自由主義ではないはずです。

 志位 そうですね。

 本田 ですから、たくましい、正しい経済であったりとか、あるいは、テクノロジーも必要なものは使うといったりした主張は必要ではないかと思うのです。そのギャップがもう少し埋められないかなと考えていますが、どうでしょうか。

新自由主義から転換し、“やさしく強い経済”へ

 志位 そのご指摘は大事だと思います。本田さんの『前衛』1月号のインタビューを拝見して、いろいろと感じるところがありました。いまおっしゃったこと、特に30代、40代の男性の働き手にも響くような訴えをどうやればできるかということは、本当に考えなければいけないなと思いました。

 そこで、こう考えてみました。新自由主義から転換しなくてはいけないというのは、本田さんも同じ立場だと思います。では、新自由主義から転換してどんな社会をつくるか。この社会を一言で言った場合、本田さんの言葉をそのまま使わせていただきますと、“やさしく強い経済”をつくろうというように訴えてみたらどうかと考えたのですが。

 本田 「やさしく強い経済」ですか。

 志位 これはワーディング(言葉遣い)の問題だけではありません。新自由主義が、だいたい1980年代から始まり、90年代からうんとひどくなりました。この間に、三つの悪政がやられたと考えています。

 一つは、労働法制の規制緩和で、「使い捨て」労働を蔓延(まんえん)させてしまったこと。

 二つは、社会保障の連続切り捨てで、医療も介護も年金も貧しくしてしまったこと。

 三つは、消費税を増税し、富裕層と大企業に減税して、税の公平を壊してしまったこと。

 この三つをやって、その結果できた社会はどんな社会でしょうか。

 一つは、“冷たい社会”です。つまり、人々に「自己責任」と「自助」を押し付ける、“冷たい社会”に変えられてしまいました。同時に、この“冷たい社会”は“もろい社会”でもあるのです。つまり決して本当の意味での“強い社会”じゃない。“もろい社会”“弱い社会”をつくってしまった。この“もろさ”ということを考える場合に、本田さんの著書『「日本」ってどんな国? 国際比較データで社会が見えてくる』を読んで、いくつか大事なポイントがあるなとあらためて思いました。

 第1は、「成長ができない国」になってしまった。OECD(経済協力開発機構)のデータで、この7年間(2013年~20年)で見て、実質GDP(国内総生産)の伸びはアメリカが25%。ユーロ圏が14%。日本が6%です。日本は、世界で最も成長できない国になり、深刻な停滞状態に陥っている。脆弱(ぜいじゃく)な経済になってしまいました。

 本田 そうですね。

 志位 それから第2は、「危機に弱い国」になった。

 そのことは新型コロナ危機であらわれました。長年、社会保障と公衆衛生を切り捨ててきた結果、お医者さんの数はOECD平均に比べて14万人も少ない。保健所は半分にしてしまった。それが医療崩壊を招いてしまいました。強いどころではなく、危機にもろい社会にしたわけです。このことでたくさんの方が亡くなりました。

 それから第3は、本田さんも著書で強調されているのですが、本当の意味での競争力を失ったということです。このデータでは、1990年代初めに日本は世界で1位だったのに、現在は34位とありますね。競争力をうんと失った。

 本田 私の本を取り上げていただいてありがとうございます。そこでも紹介しましたが、日本経済がもうディクライン(衰退)していることは明らかですね。IMDというスイスのシンクタンクが長年にわたって発表している各国の競争力ランキングは、「経済的業績」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「社会基盤」の四つの分類に基づく客観的データとアンケート調査結果による指標を用いて計算したものですが、これによると、90年代以降の日本の低下は著しく、その後も持ち直していないことを示しています。

 志位 10年ほど前に、電機・情報大企業による13万人規模の首切り・リストラ計画が大問題になったことがあります。私も当時、国会でとりあげたのですが、あの時に日本の電機・情報大企業は、技術・開発部門までリストラの対象にしました。それが、深刻な頭脳流出を招きました。そして開発力を失っていった。

 半導体を見てみると、一時は、世界で50%以上のシェアがあったのが、いまは10%です。半導体一つ自前で調達できなくなり、ばくだいな補助金で台湾企業を誘致しようというありさまです。ごく短期の利益さえ上がればいい、株価さえ上がればいい、中長期の目で人を大事にせず、リストラでどんどん人を切っていった結果、日本の競争力はこれだけ衰退してしまいました。

 つまり、新自由主義は、日本を、“冷たい社会”にしただけではなく、“もろく弱い社会”――脆弱な社会にしてしまったのです。

 だから、先ほど言った三つの点で、根本からの大改革をする必要があります。一つは、労働法制の規制緩和の路線を転換して、人間らしく働けるルールをきちんとつくっていくこと、二つは、社会保障を切り捨てから拡充に大きく切り替えること、三つは、消費税を減税し、富裕層や大企業に応分の負担を求める税制改革を行うこと――。そういう一連の大改革をやることが、“やさしく強い経済”にする道だということを、訴えていきたいと考えています。

「強い」経済は共産党にとって資本主義批判という点から見れば妥協か?

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ほんだ・ゆき 1964年生まれ。東京大学大学院教育学研究科教授。専攻は教育社会学。著書に『教育は何を評価してきたのか』(岩波新書)、『社会を結びなおす』(岩波ブックレット)。近著は『「日本」ってどんな国?』(ちくまプリマー新書)

 本田 私が申し上げたことを率直に受け止めてくださって本当にうれしいです。

 私も資本主義について多少は勉強していまして、さすがにこのままではヤバイと思っています。私は、資本主義を乗り越えたコミュニティベースの経済社会にも共感するのですが、ただ、そこに至るまでにちょっと長い道のりがかかりそうという気もしています。

 志位さんのおっしゃった「強い経済」という方向が、問題含みの資本主義を延命することを暫定的に主張してしまうことになるのかもしれないと思いながら、いまの資本主義が滅ぶとか、資本主義を変えていかなきゃいけないと思っていない人たちに、共感・賛同してもらうためには、こうした打ち出しが必要だとも感じます。

 「やさしくて強い経済」というスローガンを打ち出すとおっしゃったのは、日本共産党の資本主義に対する批判という点からみれば、相当主張を曲げていただいたのではないでしょうか。

 志位 いやいや、そうじゃないんですよ(笑い)。マルクスの『資本論』のなかに、とても印象的な叙述があるんです。

 19世紀のイギリスで、人類初めての工場法ができました。とくに1848年から50年の時期に、「1日10時間」に労働時間を規制する工場法がつくられた。マルクスは『資本論』のなかで、いろいろな角度から工場法の歴史的意義に光を当てているのですが、工場法がつくられる前のイギリスというのは、長時間労働がまったく野放しですから、労働者階級は肉体的にも精神的にも健康を失ってしまう。児童労働も野放しですから、子どもの成長にも障害がつくられる。そのことによって、イギリスの資本主義の全体が行き詰まっていくのです。

 工場法をつくってどうなったか。マルクスは、『資本論』で、イギリス資本主義の「驚くべき発展」が起こったといっています。つまり、工場法によって、労働者が肉体的にも精神的にも健康を取り戻して、そのことが社会全体に活力をもたらしたと。マルクスは、そのことをすごく肯定的にとらえているわけです。

 そういう意味での「強い経済」をつくっていくということは、私たちの主張を曲げるわけでもないし、反対に、私たちがめざすものなのです。資本主義が健全な発展をとげれば、それだけ先の社会に進む豊かな条件もつくられますから。

 本田 弁証法ですね。

 志位 弁証法です。健全な意味での「強い経済」をつくるということは、決して妥協でもなんでもありません。日本経済が衰退してしまったら、これは先に進む条件もなくなるわけで、共産党としても困るわけです。(笑い)

 まともな発展の軌道を進んでこそ、暮らしにとっても、その先の社会に進むうえでも、希望が開けてくるわけですから。“やさしくて強い経済”というのは、決して科学的社会主義の立場を曲げて妥協して言っているわけではありません。

 本田 すごく分かりました。

気候危機打開とジェンダー平等を考える

 本田 もう少しお伺いしてみたいと思ったのは、日本の経済や企業が、グダグダな状態にあることにたいして、先ほどおっしゃった労働法制、社会保障、税制での改革が必要だというのは賛同するのですが、それだけでこんなにグダグダになってしまった経済、企業が息を吹き返すのでしょうか。ちょっと心配です。

 志位 三つは例示的にいったもので、それに限るわけではありません。ちょっと次元が違うのですが、私たちは、気候危機の打開ということも打ち出しています。

 日本共産党は、この問題で昨年、「気候危機を打開する日本共産党の2030戦略」というのを提案しました。この中で、2030年度までにCO2を最大60%削減しよう、それを思い切った省エネと再エネで実現しようと、かなり大胆な計画を提案しています。

 この提案そのものが、日本経済に活力と強さをもたらすことにもなります。「2030戦略」では、この道を進めば30年までに、254万人の雇用が増え、累積205兆円のGDPが増えるという試算も紹介しました。社会システムの大規模なチェンジをやることは、経済に活力と強さを取り戻していく道にもなることは間違いありません。

 本田 なるほど。

 志位 それからジェンダー平等という大問題があります。ジェンダーの問題というのは、あれこれの一分野の問題ではなくて、社会のあらゆる問題に「ジェンダーの視点」で対応しなければならないというのは、国連などでも当たり前の大原則になっているわけです。たとえば、本田さんの著書でも指摘されていますが、男女の賃金格差の問題です。

 昨年の総選挙でもずいぶん訴えたことですが、日本の男女の賃金格差は、生涯賃金で1億円にもなる。そこには働く女性の約58%が非正規雇用という問題があります。それから、多くの女性が「一般職」にしかなれないという問題があります。そして、ケア労働の主な担い手が女性になっていますがその賃金が低いという問題もあります。

 これは一つの事例ですが、ジェンダー平等の社会をつくることが、本当の意味での日本の社会や経済の活力を取り戻すことにもなる。全部がつながっていると思うのです。

 本田 そうですね。それは、よく分かります。

 国際比較データを見てみても、先ほど紹介していただいた以外の項目を見ても、世界経済フォーラムが毎年公表している「ジェンダーギャップ指数ランキング」では、日本は継続的に低いランクにあります。特に「経済活動への参加と機会」という指標は国際的にかなりランクが低い。気候危機打開の提案にも私は賛成です。

 ただ一方で、世の中には、ジェンダー平等という打ち出しに対して、「自分たちさえ食っていけなくなっているのに、さらに女性が地位を脅かしに来た」と受け止める男性や、家事・育児分担がこんなにも不平等なもとでも不満を抱かない女性もたくさんいます。石炭火力発電をなくしていくという気候危機打開の方向に対し、相変わらずまだ石炭火力に固執する勢力もあります。私は、なぜこんなに転換できないのだろうと思うわけですが、それでも短期的な利益にしがみついているところがたくさんあります。

 志位さんがおっしゃった共産党が掲げている理知的な主張はすべて妥当で、私は賛成します。賛成するのですが、こうした人々と共産党の主張のギャップ、距離感は仕方がないのでしょうか。これを埋めるためにはどうすればいいんでしょうか。

「ギャップ」をどうするか―粘り強い社会運動で打開していきたい

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(写真)フラワーデモで参加者の訴えを聞く人たち=2021年12月11日、東京都千代田区

 志位 たしかに「ギャップ」「距離感」もあるだろうと思います。ただ、仕方がないというわけにはいきません。それを埋める力は、やはり社会運動を広げることではないでしょうか。

 政治学者の中野晃一さん(上智大学教授)が、「『ジェンダー平等なんて言っても左派過ぎて人がついてこない』なんて言われる社会は、社会自体を変えていかなくてはいけないと思うんですね。ほかにもこういうテーマはまだ響かないというようなことであれば、それが響く社会に変えていく必要がある」とおっしゃっています。私も、その通りだと思うんです。

 じゃあどうやって変えるのかといったら、やっぱり社会運動だと思うのです。たとえば、作家の北原みのりさんたちが中心になってずっと取り組まれているフラワーデモの活動があります。私も何度も参加させていただきました。私自身、あまりにも知らないことがたくさんありました。こんなにも性暴力でたくさんの人が苦しんでいること、特に幼い頃に受けた傷で長いこと苦しんでいること、初めて知ることが多かったのです。

 やはりいろいろな運動の力で状況を変えていくことが大切だと思います。フラワーデモだって、長い取り組みの中で状況が変わり、刑法改正も現実の課題になってきました。あきらめないでたたかっていくってことが状況を変えてきたのだと思います。

 本田 そうですね。

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(写真)「気候正義」を求めてコールする「フライデーズ・フォー・フューチャー」横須賀メンバーら=2021年10月22日、神奈川県横須賀市内

 志位 気候危機の問題では、昨年、共産党が取り組んだオンライントーク企画でこんなことがありました。企画には20歳の大学生の女性が参加してくれたんですが、この方は横須賀市の石炭火力発電所に反対する運動をやっている方でした。

 彼女は環境活動家のグレタ・トゥンベリさんの話を聞いて衝撃を受けたと語っていました。「カーボンバジェット(温暖化を特定のレベルに抑えるために許される二酸化炭素排出量)について自分も勉強してみたら、日本はカーボンバジェットがあと6年分しかないということが分かった。自分はいま20歳だけど26歳で世の中が終わってしまうのかと思ったら涙が出て止まらなかった」と話していました。ただ、彼女は、はじめは、この問題と政治とのつながりが分からなかったということでした。その後、彼女は、やはり政治を変えないと気候危機も解決できないと、結びついたそうです。そして、いろいろな形で私たちの活動を応援してくれるようにもなりました。いま、気候危機打開という点でも、若い人たちのなかでいろいろな運動が始まっています。やっぱり、いろいろな運動の力で、世の中を変えていくということではないでしょうか。

 本田 ええ。

 志位 気候危機、ジェンダーって、世界ではメインストリーム(主流)の問題ではないですか。にもかかわらず、日本でまだそうなっていないとすれば、社会を変えなければならない。変えようと思ったら運動をやるしかないということではないでしょうか。

 本田 その通りだと思います。フラワーデモというのは、すごくとても大事な例で、小さい集会であっても、ずっと続ける。その中で報道もされる。報道されたということは影響が少しずつ出ているということですよね。判決も少し変わってきました。ジェンダーや気候危機を許容するような発言や行動に、世の中が「まだそんなこと言ってんの」「ばかじゃないの」みたいに、常識がだんだんいい方向に変わっていく。こういうことをやはりあきらめないで続けていかなきゃいけないなということは、すごくよく分かります。

「勝つ方法はあきらめないこと」

 志位 本田さんの本の「あとがき」で、「あきらめるという選択肢がないということだけは確かです」と書かれていました。私はこれはすごく大事なことで、沖縄のことを思い出しました。沖縄では、名護市辺野古の新基地建設に反対する運動がずーっと続いています。「オール沖縄」のみなさんのスローガンは「勝つ方法はあきらめないこと」。あきらめなければ最後は勝つぞというのが、沖縄の運動です。それぐらいの性根を据えて頑張るのが重要じゃないかと思うんです。

 本田 「勝つ方法はあきらめないこと」―。見るたびに元気がでる言葉ですね。

 志位 共産党も100年やっていまして(笑い)、あきらめないで、最後は勝つという信念でやっています。

 本田 そうですよね、100年やっていらっしゃるんですから、多少のことは全然平気でいらっしゃいますよね。(笑い)

競争と管理が極端にひどくなった教育をどうやって変えるか

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(写真)少人数学級のさらなる改善を求め、財務省と文科省に署名提出・要請し、記者会見する教育研究者有志。右端が本田由紀さん=2020年12月18日、文部科学省内

 本田 それにしても「野党は批判ばかり」という批判には腹がたちます。もう「あほか」って。私も批判ばっかりしている人間なんで、「なんで批判がダメなんだ」って思っているのですが、世の中全般的には、特に若い人たちは何か、プロパガンダ(宣伝)みたいなものに乗せられてしまっているのかもしれません。

 または、学校とかいろんな同調圧力が各所で強いので、そのなかである意味洗脳されているのかもしれませんが、とにかく堂々とノーをいうとか、権力をもった人にたてつくみたいなことをしません。あるいは嫌うという傾向があります。

 それは階級意識の希薄さでもあり、人権意識の希薄さでもあると思うのですが、大きな政治運動であれ社会運動であれ、頑張っている人が一部にいるのは確かなんですが、大きなうねりにならないあたりが残念で仕方がないです。

 この問題に関連していうと、学校が私のもともとの専門分野ですので、学校もいま大問題で、特に教育基本法が改定されてから、どんどん締め付けが強くなっています。それから教員の過重労働が大変なので、教員を締め付けることによって、連鎖みたいな形で、教員が児童・生徒を締め付けているという状況です。

 志位 本田さんの本に示されたデータを見ると、中学校の先生の労働時間は日本は世界一ですね。

 本田 学級人数のこともそこで書きましたが、ここで十分に書けていないのが、どれぐらい管理とか統制とか、画一性の強制みたいなことがおこなわれているかということです。これがひどい状況です。

 志位 本当にそう思います。大阪市の小学校の校長先生(久保敬氏)が松井一郎市長にあてて出した「大阪市教育行政への提言」は、とても胸を打たれる内容でした。「学校は、グローバル経済を支える人材という『商品』を作り出す工場と化している」、「あらゆるものを数値化して評価」し、「子どもたちは、テストの点によって選別される『競争』に晒(さら)される」。痛切な告発をしていますよね。衝撃をもって受け止めました。

 教育基本法が改定された後、全国一斉学力テストが始まり、点数競争が強化されました。PDCA(Plan・Do・Check・Action=計画・実行・評価・改善)サイクルという企業経営の手法を子どもに適用し、「関心・意欲・態度」など教育に関わるあらゆる要素を数値化して競わせるという競争教育の極致のようなことが一方で起こっています。他方で、日の丸・君が代の強制、「愛国心」の押し付け、道徳の教科化、ゼロトレランス(寛容度ゼロ)、人権無視の校則など、管理主義教育がひどくなっています。競争と管理が学校現場を本当に深刻な事態に陥れています。

 本田 私の同僚が調べた結果があるのですが、新自由主義っていう言葉を使っている研究は、実は教育の分野が一番多いのです。つまり日本の教育では、顕著に新自由主義の弊害が表れているということです。

 その意味では、本体の経済よりも、それ以外のところで新自由主義が猛威をふるっている感じがあります。おっしゃったことはすごくその通りです。

 志位 2006年に、教育基本法改定の動きがあり、当時、私は国会でずいぶん論戦をやりました。この動きの直接の出発点となったのは、首相の諮問機関である「教育改革国民会議」が2000年12月に発表した「教育を変える17の提案」という文書です。そこには、「初等教育から高等教育を通じて、……社会が求めるリーダーを育てるとともに、リーダーを認め、支える社会を実現しなければならない」と書いています。私は心底ぞっとして、こんな教育でいいのかと追及したら、当時の小泉(純一郎)首相の答弁は「全国一斉学力テストのどこが悪いか」というものでした。本当に恐ろしい差別・選別の教育観ですが、それへの痛みも反省もない。

 「愛国心」の強制なども大きな問題ですが、最も深刻なのは競争教育の徹底化だったと思っています。そこに国家権力が介入していくという仕掛けをつくった。

 教育基本法改悪のあと教育現場がこれだけ荒らされました。でもその中で、声を上げる校長先生もいる。頑張っている人たちもいます。少人数学級では、みんなで力を合わせて第一歩の成果を勝ち取りました。そうした変化も出てきています。

 やはり教育のところから、どういうふうに個人の尊厳、多様性を大事にする教育をつくっていくのかを考えなければなりません。「人格の完成」がもともとの教育基本法の最大の目標だったわけで、それのみを目標とする教育への改革をどうやって進めるかも大問題です。やはり子どもたちは、そういう教育をずーっと受け、それで若者になっていくので、その影響は大きいものがあるのだと思います。

 本田 その通りです。

政治が変われば、教育も大きく変わる

 志位 亡くなった私の父は、千葉県船橋市で小学校教員をやり、船橋市教職員組合の書記長などもやってきたのですが、父と教育のことをずいぶん話しました。

 父は、いかに競争教育が子どもを傷つけるかということを、ずいぶん話してくれましたが、その父が言っていたのは、日本の教育はここまでダメにされたけれど、政治が変わればいっぺんに教育だって変わるということです。

 それは父の体験からの言葉でした。父は1929年生まれですから、終戦の年に16歳、当時の陸軍幼年学校に行っていましたから、まさに軍国少年中の軍国少年だったんですね。それが終戦でガラッと変わった。あれだけ徹底的に「皇国史観」を叩き込んで、子どもたちがちゅうちょなく戦場に行くところまで徹底的に洗脳しても、政治が変わったらガラガラッと変わったと。だから、「教育現場でのたたかいも大事だが、教育を変えるには政治を変えるのが一番早道だ」とよく言っていました。

 本田 近代学校教育制度は法律や政策によって設計され、政治と直結しているので為政者の意図が反映します。日本のような中央集権的な制度の国では特にそうです。自分たちに都合のいい人間、文句はいわないで経済的に有用な人間になってほしいという意図がいまの政権下では濃厚にでています。それは教育基本法が変えられてからいっそう明らかで、特別の教科道徳で細かく項目を設定したように内面の自由を無視し、子どもの内面に手を突っ込んでいます。たいへん問題がある状況です。だから、政治が変われば教育は変わるというのは、その通りです。

少人数学級――一歩だが40年ぶりに動いた

 志位 一歩変えたということでは少人数学級がありますね。私も、20年6月の国会で、安倍(晋三元)首相とずいぶん論戦をやって、あの論戦が国会での安倍首相との最後の論戦になりました。その時、最後に「少人数学級の取り組みを加速させると約束を」と求めたら、「検討していきたい」と答弁した。私と彼とのやりとりの最後は、まともな答弁で終わったんです。(笑い)

 本田 少人数学級の実現は、私も取り組みました。署名は、新日本婦人の会のみなさんが、ものすごく協力してくださいました。私は、このことは一生忘れません。

 志位 あのとき、どうやって論戦しようかと思って、国立成育医療研究センターが実施した「コロナ×こどもアンケート」を取り上げ、子どもたちがコロナを体験してかつてない不安とストレスを抱えていると指摘しました。さすがに安倍首相も「子どもたちの心に寄り添い、しっかりサポートしてまいります」と答えた。多くの教育関係者、父母、自治体などのがんばりで、40年ぶりに動きました。

 本田 動きましたね。でもこれからです。中学校のほうがまだまだひどいですし、しかも、いま35人って、世界的に見たら全然少人数ではないですからね。

 志位 早く30人学級にして、25人、20人としなきゃだめですよね。

 教員を10万人、スタッフを3万人増やそうという「提言」を日本教育学会が発表し、私は、国会でも「提言」を紹介して、そのくらいの規模で教員とスタッフを増やさないといけないと訴えました。ただやっぱり、動くじゃないですか。

 本田 動きますね。(笑い)

 志位 やっぱり、運動をやっていくしかないですね。あきらめないで運動をやっていくことだと思います。人々の心をどうやったら変えられるかといったら、たたかいのなかで変わっていくのだと思います。

 社会を一歩一歩変えていくことは、人間を変えていくことでもある。社会を変えるたたかいのなかで、国民の認識や力も成長・発展していくのだと思います。

 そして政治を変えれば、一気にいろいろなものが変わります。野党共闘をあきらめないでやっているのも、やはり政治を変えるのがいろいろな問題の解決の一番の早道だと思っているからなんです。

 本田 信じられないですよね。選択的夫婦別姓くらいやってくれよといいたいのですが、これしきのことがやれない。やはり、政治を変えなければならないということですね。

岸田政権の新たな危険――軍事対軍事の道は絶対に選んではならない

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(写真)土砂投入を許さず、辺野古新基地建設断念を求めた県民大会でがんばろうと唱和する人たち=2019年3月16日、那覇市

 本田 岸田政権ほどわかりにくい政権はありません。立ち居振る舞いからは、安倍・菅ほど“人でなし感”というのは見えてこない。そういう点では少し違うかのように見えますが、結局のところ路線としては、いろいろ安倍・菅政権を引きずっているものがたくさんあるわけです。つまり低姿勢だけど、やっていること自体は前の政権と大して変わらないように見えたりします。

 たとえば、学術会議の任命拒否の問題。私は、20年9月末まで学術会議の会員で、任期が終わってほっとしたとたんに飛び込んできたのが6人の任命拒否のニュースでした。私は自作のプラカードを作って官邸前の抗議集会に参加し、「ありえない。説明できるものなら説明してみろ」といいました。梶田(隆章学術会議)会長が岸田文雄首相に撤回を求めていますが、まったく聞く耳をもたない。安倍、菅政権といったいどこが違うのか。

 志位 何が「聞く力」かと言いたいですね。学術会議への無法な介入は、私たちも引き続き撤回を求めていきます。

 私が、岸田政権を見ていて、とても危ないと思うのは、9条改憲にたいへんに前のめりになっていることです。所信表明演説で歴代政権として初めて「敵基地攻撃能力」の「検討」と言い出しました。安倍・菅政権でもできなかったことをやろうとしている。新しい危険が現れてきました。

 米中の対立が強まっていくなかで、絶対に避けなければならないのは、軍事対軍事のエスカレーションです。そうすると一番怖いのは偶発的な衝突です。偶発的な衝突から戦争になり、その時に、日本の自衛隊が米軍とともに戦争に突入するということになると、今度は、日本が報復の対象になります。

 そこに向かう危険を止めなければなりません。私たちは、今年5月3日に向けて、9条改憲を許さない署名を党としても1000万人集めようと、今、取り組んでいます。国民の運動で、危ない動きをはね返さないといけません。

 本田 おっしゃったとおりのことを私も思っています。

 日本は近隣国を侵略して、残虐行為をしたうえで、原爆を落とされ、沖縄戦の悲劇を生みました。そこに追い込まれるまで戦争をやめることができなかった。とても愚かなことをしてしまった国です。そういう刻印が刻み込まれた国が戦争を放棄するのは当たり前だと思います。日本がやったことを忘れていない国が周りにある中で9条を変えることは日本に対する不信を広げることになります。緊迫した状況の中で、9条の改悪や軍備増強や敵基地攻撃に突き進むことは、大変危うい状況に突き進んでいると危惧しています。

 志位 バイデン米政権のとっているスタンスは、中国に対して軍事的に包囲していこうというものです。その軍事的包囲に同盟国を動員する。そういう流れの中で「敵基地攻撃」の議論が出てきている。これは、たいへんに危険な状況で、軍事対軍事のエスカレーションは絶対に選んではならない道です。

ASEANと協力して東アジアを平和の地域に

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(写真)ASEAN事務局を訪問した志位委員長(右)と笠井衆院議員=2013年9月26日、ジャカルタ(面川誠撮影)

 本田 問題は、日本がどうするか、どうしたらいいかですね。

 志位 そうですね。まず中国が、東シナ海や南シナ海でふるっている覇権主義をどうやって抑えるか。やはり、外交で解決するしかありません。どんな紛争も、外交で解決し、戦争にしないということです。国連憲章と国際法に基づいて、平和的な話し合いで解決し、平和的に共存していく、それしか道はないんですよね。

 本田 どうやってそれをやるかですね。

 志位 この点で、私たちが一貫して注目しているのは、ASEAN(東南アジア諸国連合)です。ASEANの国は、TAC(東南アジア友好協力条約)という武力行使の禁止、紛争の平和的解決など義務付ける条約を1976年に結びました。それを世界にずっと広げています。

 ASEANがいま力を入れているのは、東アジアサミット(EAS)を、東アジアの平和のフォーラムとして強化していくということです。EASには、ASEAN10カ国に加えて日、米、中、韓、ロ、オーストラリア、ニュージーランド、インドの8カ国が参加しています。中国もアメリカも入っている枠組みです。

 今、ASEANがやろうとしているのは、このEASをTACの精神で強化していく、つまりEASを東アジア地域の「対抗ではなく対話と協力」のフォーラムとして強化していこうという方向です。

 その到達点が、2019年6月のASEAN首脳会議で採択された「ASEANインド太平洋構想(AOIP)」というものです。インド太平洋地域――先ほどいった18カ国を対象にして――を、TACの目的と原則にそって、あらゆる紛争を平和的に解決する、武力行使を行わない平和の地域にしていく、ゆくゆくはインド太平洋規模でのTACを展望していこうというものです。

 ASEANが長年とりくんできた、あらゆる紛争を平和的に解決するという枠組みが、EASという形で現に広がってきていて、そこに日本も入っている。だったら、「敵基地攻撃」なんて物騒なことを言わないで、紛争の平和的解決のためにEASを本気で強化して、東アジアに平和の枠組みをつくっていくという外交をやるべきじゃないかと考えていますが、どうでしょうか。

 本田 いや、素晴らしいと思います。中国は言うことを聞きますかね。

 志位 中国もAOIPには賛成しています。アメリカも賛成しているんです。オーストラリアも賛成している。日本政府も一応賛成している。つまりこのAOIPには、EAS参加の18カ国がすべて賛成しているんです。

 ASEANは今、本気になってEASを平和と協力のプラットホームにしようとしています。彼らがこれを一生懸命やっている一つの理由は、南シナ海問題を抱えているからです。南シナ海に中国が出てくることは許さない。ただ、アメリカが介入するのもごめんだ。どんな大国のいいなりにもならない。介入を許さずに、この地域の平和と安定を確保するような仕組みをどうつくるかということで、先ほど言ったEAS、AOIPという方向で、努力を続けているのです。

 私は、以前、ジャカルタのASEAN本部に行ったことがあります。そこで、「ASEANはなぜこんなに平和な地域になったんですか」と聞いたら、こんな回答が返ってきました。「ASEANの域内だけで、年間1000回会合をやっています」。「年間1000回といったら1日3、4回やっているという計算ですね」といったら、「そうです。毎日どこかでやっています」とも答えてくれました。「それだけ会合をやっていると、相互理解と信頼醸成が進んで、もう戦争にはなりません。どんな紛争問題も平和的に話し合いで解決しています」という話でした。

 たしかにもうASEANで戦争は考えられません。かつてはベトナム戦争で、二手に分かれて互いに戦争をした歴史もある。しかし「対立と分断」から「平和と協力」の地域に大きく変わりました。そして、ASEANは、そういう平和のための対話と協力を、域外に、世界に、大きく広げてきているのです。だから、日本こそ、憲法9条を持つ国として、ASEANと協力して、未来あるこの流れを前に進め、東アジアを平和の地域にするための平和外交にこそ力を入れるべきだということを、訴えていきたいと思っています。

 本田 対話が絶対必要だということですね。相手にどう訴えかけて相互理解につなげていくのかというのが、国内での政治運動も、外交でも同じことなんですね。

 その点で、1000回の会議とおっしゃったことがすごく面白かった。今の提案をしていくのは、とても大事だと思います。対話を続けること自体が効果をもたらすということですから。

日本共産党創立100周年に向けて

 本田 今日は、「あきらめない」という、私が本に書いたことを、大きなテーマにしていただいて、ずっとその話をしてきた気がします。共産党は100年の歴史をもっておられるわけですが、やはり、あきらめないということ、続けるということ、正しいことを掲げるということ、将来を見据えるということ、それを全部やってこられたのが、日本共産党だと思います。だから、嫌な想像ですけれども、もし日本共産党が日本からなくなったりしたときのことを考えると、もう私は、恐ろしくてしようがない気持ちになります。

 本当にもう、ろくでもない与党が政権についているような状態が、日本全体にものすごい弊害を及ぼしているというのが多くの人が感じているところだと思います。だからやはりオルタナティブ(代案)ということがどうしても必要です。

 オルタナティブは確実にある。それを実現してくれるのは、私は分厚い左派勢力つまり野党共闘だと思っています。決して、共産党だけに責任を押し付けるつもりはありませんが、野党共闘には、まったくぶれない共産党が中核になって努力、イニシアチブを取ってくださることがどうしても必要かなと思います。

 志位 ありがとうございます。やはりあきらめないでたたかい続けることが大事ですね。だいたい日本共産党はこれまで100年やっていますけれど、順風満帆なときはほとんどないというか全くありません。いつも攻撃されているといっても過言ではありません。

 ただ、私は、いつも攻撃されているのは、この社会を根本から変えようという志を持っていることの証しですから、むしろ誇るべきことだと思っているんです。

 私は、戦前の先輩たちのたたかいに強い誇りを抱かずにはいられません。戦前の党は、党員の数は少ないし、非合法下に置かれましたが、社会的影響力は大きなものがありました。小林多喜二にしても『中央公論』『改造』などの当時の一流の雑誌にどんどん登場しました。野呂栄太郎は、岩波書店から日本資本主義を科学的・歴史的に分析した『講座』を出しました。

 だからこそ暗黒権力の側は、それを恐れて弾圧した。日本共産党を弾圧した後に、侵略戦争がやってきたわけです。だから、私たちとしてはどんなことがあっても頑張りぬいて、あきらめないで、勝つまで頑張るつもりです。どうか本田さんにも、これからもずっと温かく見守っていただきたいと思っています。

 本田 それはもう、もちろんのことです。

 志位 よろしくお願いします。どうも今日はありがとうございました。

(2022年1月1日「しんぶん赤旗」)